意識高くないゆとり

平成初期型ゆとり世代の意識が高くないブログです。

【感想】不道徳お母さん講座 ~私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか~【当たり前は当たり前じゃなかった話】

母という存在は、社会において多くを求められる立場ですよね。

子供のためであればどんな辛いことであっても耐えるべき、という風潮がありますし、母が働くと子供が可哀想だ、ということを言ってくる人もいます。

そんな母性に代表されるような日本人の道徳観念、これがどのような社会背景によって生まれたのか。

それをこの本では明らかにします。

昔からある、当たり前にあると思っていたもの、それがこの本を読むことで崩れていくのが本当に面白かったです。

 

 

内容紹介

2018年、小学校で道徳が正式教科に……! 

歴史を遡り、日本の「道徳」がつくられた過程と、
母性幻想と自己犠牲に感動を強いる「道徳教育」の問題点をあぶり出す。
『女の子は本当にピンクが好きなのか』著者最新刊、いま誰もが読んでおくべき、日本の「道徳」解体論! 

「なんで今、私たちの社会はこんなことになっているのか。敵は大きすぎて、丸腰で立ち向かってはゆるふわ感動ワードに流されかねない。近代史の山に分け入って知識を蓄え、人文知という棍棒を手に「道徳」に抗ってみたい。お母さんだからってなめるなよ。それが本書の主旨だ」
(「まえがきに代えて」より) amazon

 学習指導要領の改訂により、「道徳」というものが一つの科目として扱われるようになります。

そんな道徳において題材にされることが多いのが、「母性」「自己犠牲」というもの。

道徳を教科を扱うにあたり、これまでの道徳教育がどのようなものだったのか、そこで求められた道徳像がどうして生まれたのかを掘り下げる内容となっています。

無償の愛で自己犠牲する母

「子供は母乳で育てなければならない」

「保育園は子供に悪影響」

「無痛分娩は愛情が足りない」

「化粧をする母親は媚びている」

こういった声、聞いたことがありますよね。

21世紀、平成も終わるという今でも、母親は家で家庭を守り子供の為に全てを捧げなければならない、という考え方は消えていません。

この本では、母親に求められるものとして、「自然」「伝統」「自己犠牲」というものをあげ、そしてそれに反する母親に対して厳しいバッシングが浴びせられる現状を示しています。

ただこの母性への幻想、これは伝統だからと考えやすいですが、実はそうではないとのこと。

日本文化史を振り返れば、子供のために自己犠牲する母親像というのは、さほど長い歴史を持つものではない。

ということで、「子供に尽くす母親像」が伝統でないことを示すいくつかの例をあげています。 

例えば、イザナミの破壊神っぷり、「今昔物語」において貞操を守るため子供を捨てて逃げた母の話、子供への憎しみが節々に溢れる子守唄。

「子供のために自己犠牲をする母親」というものが社会において感動コンテンツになるのは大正時代であり、そのころから母は聖なる存在であり、子供のために自己を犠牲とする母親が求められるようになりました。

そしてそれが軍国主義的な考え方と融合し、子供を国のために差し出すように求められるようになっていた、という経緯があるようです。

今でも、苦労をするのが真の母親であるという風潮は消えませんよね。

以前話題になった「あたしおかあさんだから」という歌の歌詞、これについても母親の自己犠牲ばかりが押し付けられていると言われました。

様々なしたいことを全て我慢して、それでもあなた(子供)に会えてよかった」という内容の歌詞で、まさに子供に尽くす母親像を具現化していますね。

このような母親を否定するつもりはありませんが、このような母親像というものをみんなが求め出すようになると、本当に息苦しい世界になってしまいますね。

そもそも母性って、全然伝統的なものではありません。

この意識が変わらないと誰も子供を持ちたいとは思わない状況となってしまいます、というかなっているのかも…。

まとめ

母性という幻想がどのように生まれたのか、ということがとてもわかりやすくまとめられたこの本、他にも「1/2成人式」「組体操」といった多くのリスクが含まれた学校行事がどのようにして広まっていったのか、ということについても分析しています。

 そこの部分については以下の本でも詳しく述べられています。

www.ishikihikuiyutori.com

 

なんとなく当たり前に思われているもの、正しいから受け入れるべきだと思われるものって世の中にたくさんありますよね。

力を合わせることは素晴らしい、子供思いの母親は素晴らしい。

ただ、それが当たり前だろうという風潮は時に人を苦しめるものとなります。

寛容な社会であるために、当たり前を一回考え直すのが大事かもしれません。

この本はそんな当たり前が当たり前じゃないんだよ、ということを丁寧に示してくれる一冊。

ぜひ、多くの人が手にとって読んでみてほしいと思います。